狂った朝日 と 汚れた血/映画部

映画や海外ドラマに関するレビュー及び思い入れのある作品について語ったり、それに付随した思い出・ライフスタイル情報を提供いたします。

海辺の映画館―キネマの玉手箱/監督・大林宣彦の遺言的作品

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偉大なる映像作家・大林宣彦監督最後の作品「海辺の映画館―キネマの玉手箱」。

 

尾道の海辺にある映画館「瀬戸内キネマ」閉館の日、最後の上映は日本の戦争映画大特集であった。

その映画を見ていた3人の若者が、突如として劇場を襲った稲妻の閃光に包まれ「映画」の世界に入り込んでしまう。

戊辰戦争日中戦争沖縄戦、そして原爆投下前夜の広島にたどり着いた彼らは、そこで出会った移動劇団「桜隊」の人々を救うため、運命を変えるべく奔走するが.....という展開です。

 

 

大林監督といえば、やはり尾道三部作のイメージが強いですね、、あと「ねらわれた学園」も結構好きでした。

テレビでよく放送されていて、作品も当時のアイドルなどが出演して日常の風景に少しSFやファンタジックなものが入った作品が多く、とても見やすくて親しみのある監督でした。

大林監督自身もテレビによく出てましたね。

さびしんぼう」で使われていたショパンの別れの曲は、あの当時の自分とも重ねあわせられて思い出の曲です。

また「青春デンデケデケデケ」は、日本の青春映画のベストテンなどに入ってもおかしくないくらいの傑作でした。

と、そんな身近すぎることもあり大林監督の作品を映画館で見る機会がなかなかありませんでしたが、監督が余命三か月の宣告を受けながら撮ったと聞いて「花筐/HANAGATAMI」を公開時に見に行きました。

そして大林監督ってこんな凄い作品をつくるのか!とビックリして、そのあとに「この空の花/長岡花火物語」と「野のなななのか」を続けて見て、さらに驚かされました。

メッセージが凄すぎて、こんな凄い作品を見ていなかった自分に腹が立ちました。

そして今回のこの「キネマの玉手箱」です。

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これまで以上に凄かった!

「スパイダー・バース」と「ホーリー・マウンテン」を足して「マーズ・アタック」をふりかけたような驚きでした。

スクリーンから出てくるエネルギー量が巨大すぎるし、いつ死ぬかわからない弱りきったカラダで、このパワーあふれる作品とは信じられません!

この作品は大林監督のある意味集大成でもあり、「遺言」と言っていい作品だと思います。

直近の作品でも戦争についてずっと語っていましたが、この作品は直接戦争を描いてますからね、、しかも大林流

果てしない情報量と遊び心もふんだんで、見る人を完全に選ぶ映画です。

私の世代のように大林作品の独特のチープ感をわかっている人ならまだしも、上映時間も長いし、最近の普通の語り口の映画しか見ていない人にはキツい作品でしょう。

実際、劇場のあちこちでイビキもきこえてきましたし、外に出てもう戻ってこない人もいましたね。。

我が道をひたすら突っ走るという点では、デヴィッド・リンチの「インランド・エンパイア」にも感覚的に近い気もします。

しかしリンチやキューブリックみたいに、客を混乱させようという思いは大林監督にはないでしょうし、実際メッセージはガンガン突き刺さるし、情報量や遊びの部分を気にしなければ、全然わかりやすい映画ですから.....多分。

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また歴史好きだったり、江戸時代からの日本の歴史をわかっている人なら、楽しめると思います.....多分。

この作品を見て、戦争の恐ろしさが伝わるかといわれると微妙ですが、最近、日本でも戦争を描く作品がヒロイックになっている傾向があり、時代が右寄りになっているという危機感から、大林監督はこの10年くらいずっと戦争についての映画を撮っていますよね。

私の世代でも戦争を体験した人の話をちゃんときいてるか、きいてないかで戦争に対する意識が全然違いますし、中国や韓国の台頭で偏ったナショナリズムをふりかざす人が多くなってきていますが、この作品でも、戦争によって生み出される悪人を描いていますし「国」ではなく「人」が重要なんだってことが凄く語られていますね。

上映一時間ほどで、この作品の見方.....というより作品同様、観客も映画の世界に入り込んでしまうので、情報量の多さも気にならなくなりますし、第二次大戦のことを描くようになってからは、わりとストレートに展開して、戦争に対する怒りを直接的に表現していて、監督の命をかけた最後のメッセージといった感じで涙なしには見れませんでした。

キャスト的にはこれまで大林作品に登場した俳優が集結しオールスター感がありますが、大林作品といえば、、、やっぱ女優さんですよね。

常盤貴子さんや山崎紘菜さんなど「野のなななのか」からの大林作品常連の女優さんはもちろん、二人の初登場の女優さんが良かったですね。

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作品のキーとなるキャラクターの紀子を演じた吉田玲さんは、これが初出演作らしいのですが、ノスタルジックな雰囲気があり大林作品ぽさが凄く出ています。

モノクロのパートで、彼女が船から降りて自転車をこぐシーンは「さびしんぼう」のシーンと重なってすごく雰囲気が出ていますし、大林作品の幻想感を体現している女優さんでした。

そして、もうひとり成海璃子さんがいいですね。いいツラがまえです!

女優さんだなーという雰囲気で、常盤さんと共通してる感じがします。

年齢よりいい意味で大人っぽいですし、俗っぽい日本映画にはあまり出なさそうなので、ちょっと注目したいです。。

とにかくエネルギーをつめこんだような作品で、こんな映画を作れるのは大林監督だけですし、商業映画でこれだけ好き勝手にできる人、、というか許される人ってほとんどいないですからね。

この作品でエグゼクティブプロデューサーを務めた奥山和由さんが、出資側との契約上では「2時間以内の尺」っていうのが絶対条件だったところを、「カットできるところがない」という理由で、プロデュース歴初の契約違反を覚悟して完成させたらしいのですが、あの百戦錬磨の奥山和由にそんなことさせること自体凄いですし、大林監督の偉大さが伝わる逸話ですね。

できれば一日一度でいいので、年内いっぱいくらい公開してほしい作品です。

 

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